生産地域の条件
松阪牛として認められるには生産地域や対象となる牛、その他様々な条件が挙げられます。地域の条件ですが、松阪市を中心とする旧22市町村(※市町村数は2004年11月1日のもの)あるいは旧松阪肉牛生産者の会、会員のもとで肥育されていること「※平成の大合併」による市町村合併以前の市町村区域で定義されています。
対象の牛となる条件は「黒毛和牛である事」「出産を経験していない雌牛である事」「松阪牛個体識別管理システムに登録されている事」が条件になります。
またその他、下記の条件を満たす必要があります。
- ・生産区域での飼育期間が飼育期間の最終である事
- ・生産区域での飼育期間が他の区域で飼育された期間と比べて最長である事
- ・牛肉枝肉格付をするなど松阪牛個体識別管理システムの条件を満たし、出荷されたものである事
様々な条件をクリアして”松阪牛”となります。
松阪牛としての証明
松阪牛シール
松阪牛の条件を全て満たした牛には、牛肉として出荷される際に「松阪牛シール」と「松阪牛証明書」が発行されます。
「松阪牛シール」
商品のパックなどに貼られる証明シールです。肥育農家・肥育地・個体識別番号・品質規格などが記載されています。消費者が、自分の購入した松阪牛についての情報を知ることができます。品質規格に「特産」と表示される、「特産松阪牛」のためのシールと、品質規格に格付けが表示される一般の松阪牛のためのシールの2種類があります。特産松阪牛のシールは「金」、一般松阪牛のシールは格付けによって、「金」「銀」「黒」の3種類があります。
金 → 格付けで肉質等級が5であるもの
銀 → 格付けで肉質等級が4であるもの
黒 → それ以外
「松阪牛証明書」
松阪牛であることを証明する正式な証明書です。
1頭単位で買いつけられた松阪牛にのみ、この証明書が発行されます。店頭などに掲示されていることが多いですが、業者の中には、この証明書の写しを「松阪牛血統書」として商品に添付しているところもあるようです。
肥育農家・肥育地・個体識別番号・品質規格のほか、牛の名前や食べてきた餌など、かなり詳しい情報が記載されています。
牛の指紋ともいえる「鼻紋」も載っています。
松阪牛の歴史
役牛(やくうし)として農家で活躍
農作業の機械化が進む前の時代の話です。
松阪地方では、牛に農機具を引かせて田んぼなどを耕していました。このような仕事をするために飼われている牛を役牛(やくうし)といいます。この役牛として松阪地方で人気があったのが、おとなしくてよく働く但馬地方(兵庫県)生まれの雌牛でした。但馬地方(兵庫県)生まれの雌牛は紀州地方で農耕用の調教を受けたのちに、松阪にやってきて働いていました。
役牛は農家の家族と一緒に働き、農家の人々から家族の一員のように大切に育てられていました。
明治時代になり外国の食文化が日本へ
このように当初は、もっぱら牛に働かせることを目的にしていたのですが、明治の時代になり、外国文化の影響から、日本でも牛肉を食べるという文化が広がりました。そのことによって、最初は農耕に使われていた役牛も、その一部が肉牛として消費されるようになります。
このときに、松阪の農家は、農耕に3~4年使った牛を引退させ、1年ほどかけて太らせたものを肉牛として出荷したのです。このような長期間に渡り、農家の家族の一員として大切に大切に育てられた牛は、他の牛には真似のできない独特の旨みを持ち、次第にその支持と販路を広げていきました。そしてその味ははるか東京でも認められ、絶大な人気を誇りました。
鹿鳴館や高級料亭の需要に応えるため、松阪から東京まで徒歩で牛たちを連れて行く「牛追い道中」が、ほぼ隔月で行われていたほどの人気だったといいます。
飼育技術の向上とたゆまぬ努力で世界に誇る松阪牛を
こうして生まれた松阪牛は、その後も肥育農家のたゆまぬ努力によって発展を続け、肥育技術をさらに磨きながら今日に至っています。
現在では、特に但馬地方の生まれに限らず、全国から優秀な牛を導入し、肥育して出荷しています。(但馬系の牛以外でも「松阪牛」と認められます。ただし、古くからの伝統を継承し、但馬系の牛を長期間肥育して出荷した場合、「特産松阪牛」として扱われることになっています。)
そして、2002年には「松阪牛個体識別管理システム」を導入するなど、信頼と安全の確保に積極的に努めた結果、松阪牛は日本国内のみならず、世界においても高い評価を勝ち得ています。今や松阪牛は「肉の芸術品」として「世界のブランド」と呼ぶにふさわしい肉牛のトップブランドです。
個体識別番号とは
個体識別番号は、松阪牛シールや松阪牛証明書などに記載されている10桁の番号です。
個体識別番号は、松阪牛に限らず、日本で飼育されている全ての牛に1つずつ別の番号が割り当てられています。牛の耳に何やら番号札らしきものが付けられているのを見たことはないでしょうか?あの耳の札に書かれた番号が牛の個体識別番号です。個体識別耳標番号ともいいます。
松阪牛は「松阪牛個体識別管理システム」によって1頭1頭の情報を厳密に管理しているので、この個体識別番号を使えば、商品を手にした消費者が、インターネットの専用ページからその牛についての様々な情報を得ることが可能です。
個体識別管理システム
松阪牛についての情報を一頭ずつ的確に管理し、どの松阪牛についても、その牛がどこの生まれなのか、肥育農家において何を餌として育てられたのか、などが簡単に分かるように情報を一元化するシステムです。
それぞれの松阪牛の情報は、松阪食肉公社ホームページから、個体識別番号を入力するだけで誰でも簡単に検索することができます。
最終的に牛肉を手にした消費者が、その松阪牛についての詳細な情報を確認できるすることで、松阪牛のブランドに対する安心と信頼を確保しようという狙いがあります。
消費者に優れたトレーサビリティー(追跡可能性=手に取った商品から、その商品についての情報を手に入れることができるということ)を提供するシステムとして高く評価されています。
個体識別管理システムの流れ
① 松阪牛を肥育する農家は、新しく牛を買って飼い始めるときに、松阪食肉公社に報告します。
② 報告を受けた松阪食肉公社が、新しい牛と、牛を育てる農家の確認をします。
・個体識別番号の確認
・個体証明書の撮影
・牛の顔の写真撮影
・牛の鼻紋採取
(※鼻紋とは、牛の鼻の部分のしわのことで、人間でいう指紋のように1頭ずつ違っています)
・肥育農家の写真撮影
・牛の飼料の確認
③ 牛を育てている間、松阪食肉公社は年に数回、牛の肥育状態の確認をします。
④ 牛を出荷するとき、農家は松阪食肉公社に報告をします。
⑤ 松阪食肉公社は、出荷される牛が本当にその牛かどうか、個体識別番号や、牛の顔写真、個体証明書などを元に確認します。
⑥ 出荷する前に、あとでDNA検査を実施するときのために、検体を採取します。
⑦ 出荷された松阪牛は、全て1頭ずつ、食肉衛生検査所の検査員(獣医師)の検査を受けます。BSE(牛海綿状脳症)にかかっていないかどうかも検査されます。
⑧ 検査に合格したものは、日本食肉格付協会による格付けを受けたあと、肉事業者に出荷されます。
⑨ 肉事業者の依頼を受けて、松阪食肉公社は、その牛が松阪牛であることを証明するために松阪牛証明書と松阪牛シールを発行します。
⑩ 松阪牛シールの貼られた牛肉が、一般市場に出荷されます。
⑪ 松阪牛を購入した消費者は、ホームページに松阪牛シールに記載されている個体識別番号を入力することで、購入した松阪牛についての様々な情報を入手することができます。
⑫ 必要に応じて、牛肉パックの中身が、貼られている松阪牛シールの個体識別番号の牛と本当に一致しているのか、DNA検査を行います。
品質規格について
松阪牛シールや松阪牛証明書に記載される「品質規格」ですが、ここには、格付けが表示されるか、もしくは「特産」という表示がされることになっています。
牛肉の格付け
松阪牛に限らず、日本で取引される牛肉は、(社)日本食肉格付協会によって格付けが行われています。
この格付けは取引の目安となり、格付けの等級が高いほど、高値で取引されています。
格付けは、歩留等級と肉質等級の2つの等級で表示されます。
〇歩留(ぶどまり)等級
生体から皮、骨、内臓などを取り去った状態の肉を、枝肉(えだにく)といいます。
この枝肉のうち、皮下脂肪・筋肉の間の脂肪の塊などを除いた「商品として売ることができる肉」を部分肉(ぶぶんにく)といいます。この部分肉が枝肉の中にどのくらいの割合であるのかを表すのが、歩留等級です。
A、B、Cの三段階で評価されます。
Aが最も歩留がいい(=部分肉の割合が高い)ことになります。
歩留等級は、通常、枝肉の状態で行われる牛肉の卸売り取引において、その枝肉の値段を決めるのに重要な役割を果たします。牛肉の販売業者にとっては、同じ重さの枝肉から、「商品として売ることができる肉」がよりたくさん取れる方が得なので、値段が高くなるのです。
ただし、歩留等級はこのような「生体から皮、骨、内臓などを取り去った状態の肉」から「商品として売ることができる肉」が取れる割合を表すものですので、肉のおいしさにはあまり関係がないと言われます。
○肉質等級
肉質等級は、「脂肪交雑(霜降り)」、「肉の色沢」、「肉の締まり及びきめ」、「脂肪の色沢と質」の4項目を審査して決められます。肉質の良いものから5、4、3、2、1という5段階で評価されます。
それぞれの項目において5段階で評価され、総合の肉質等級は、その中で最も低い等級になります。つまり、肉質等級が「5」となるためには、4項目全てにおいて最高の評価を受けなければならないということです。
なお、2008年10月1日よりB.M.S.にもとづいた「写真による脂肪交雑基準(PSS)」が使われています。詳しくはJMGAのホームページをご覧ください。
①脂肪交雑(霜降り)
5等級(かなり多いもの)
4等級(やや多いもの)
3等級(標準のもの)
2等級(やや少ないもの)
1等級(ほとんどないもの)
③肉の締まり及びきめ
等級 | 締まり | きめ |
5等級 | かなり良いもの | かなり細かいもの |
4等級 | やや良いもの | やや細かいもの |
3等級 | 標準のもの | 標準のもの |
2等級 | 標準に準ずるもの | 標準に準ずるもの |
1等級 | 劣るもの | 劣るもの |
「特産」表示について
出荷された松阪牛が「特産松阪牛」の基準を満たしている場合、「品質規格」の欄には格付けではなく「特産」という表示がされることになっています。
これは、「特産松阪牛」であることをPRするためです。
しばしば勘違いされているようですが、「A-5」などの格付けの上に「特産」という格付けがあるわけではありません。
証明書などには記載されませんが、特産松阪牛にも、他の牛と同じように格付けは行われています。特産松阪牛の全てが最上の「A-5」ランクであるとは限りません。特産松阪牛には、一般的な牛肉格付けには現れない、特有のおいしさがあると言われ、現在、それを科学的に分析する研究が行われています。
松阪牛の美味しさ分析について詳しくは松阪牛協議会ホームページをご覧下さい。